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学術院長メッセージ

多様な視点で「人間」を探求し、学際知を創造する

筑波大学大学院人間総合科学学術院長・研究科長
新井 哲明

多様性と学際性を融合した人間総合科学学術院の取り組み

 紛争、災害、貧困、格差、少子高齢化などの問題が地球規模で山積・拡大する中で、AIを含む知的情報処理技術の普及・発展によって社会環境が多様化・複雑化してきている今日、「人間」を理解し研究することはますます重要になっています。

 人間総合科学研究科は、こうした時代の要請を先取りし、また、本学の特徴である「国際性」と「学際性」を具現化するために、2001年に、人間系(教育学、心理学、障害科学)、体育系(体育学、体育科学)、芸術系(芸術、世界遺産、世界文化遺産学)、医学系(基礎医学、臨床医学、社会医学、看護科学)が結集し、さらに、ヒューマン・ケア科学、感性認知脳科学、スポーツ医学の3つの専攻から成る学際系を創設することで、共通の研究対象である「人間」をキーワードに幅広くかつ深く「人間」を研究する全く新しいタイプの統合研究領域として誕生しました。その後従来の研究科の枠にとらわれない学際的な研究を発展させ、緩やかな統合のもとに「人間」に関する科学を推進してきました。2016年度には、鹿屋体育大学と共同で開設された「大学体育スポーツ高度化共同専攻」、筑波大学、鹿屋体育大学、そして日本スポーツ振興センターの三機関が共同して開設された「スポーツ国際開発学共同専攻」及び社会人大学院生を対象とした「スポーツウエルネス学位プログラム」が設置され、2018年度には、2017年9月に農学と医科学を融合し、国際的かつ分野横断的な共同学位プログラムとして開設された「国際連携食料健康科学専攻」が加わり、29の専攻と1つの専攻横断型学位プログラムから構成されるに至りました。そして、2020年度の大学院改組再編により、人間総合科学研究科、図書館情報メディア研究科、教育研究科が基礎となり、幅広く多様な39の学位プログラムからなる人間総合科学研究群とそれに3つの専攻(大学体育スポーツ高度化共同専攻、スポーツ国際開発学共同専攻、国際連携食料健康科学専攻)を加えた人間総合科学学術院が編成されました。また、これらを人間関連、芸術関連、体育関連、医学関連、学際関連、情報関連、東京地区(社会人大学院)の7つのサブ組織に括り、それぞれに副学術院長・副研究科長を置いて運営しています。2024年度現在、教員約640名と大学院生2,300余名が在籍しています。

 本学術院・研究科では、「人間」に関する基礎から応用までの高度な教育・研究を推進することにより、幅広い国際的な視野と総合的な知識・技能を養うとともに、それぞれの固有の学問領域においてさらに高度な研究を計画実行できる研究者、および「人間」に関して幅広い知識をもち優れた学際研究を計画実行できる研究者、さらには、複合的な視点から「人間」をとらえ、さまざまな生き方をしている「人間」に対して柔軟かつ適切な支援を企画実行できる高度専門職業人を養成することを目的としています。これは、冒頭の21世紀における地球規模課題の解決に向けてパラダイムシフトを可能にし得る総合的な視点と独創的な研究能力を持つ人材の育成、という側面も併せもっています。

 入学者選抜についても、国際性と学際性あるいは多様性と総合性を基調とした柔軟かつ弾力的な入学要件、選抜方式、選抜基準を掲げています。幅広い地域から留学生、社会人、編入学生等を積極的に受入れ、国費・私費留学生への特別の配慮をはじめ、社会人特別選抜、昼夜開講制大学院、連携大学院、協働大学院などの多様な選抜方式、および小論文や面接を取り入れた多面的な選抜基準を特色とし、それぞれ7月、8月、10月、1-2月に入学試験を実施しています。


学びとつながりを深める、FDプログラムと国際交流活動の実践

 本学術院・研究科では、各学位プログラム・専攻で行われるさまざまな教育研究活動を支援するとともに、これまで研究科を横断する形でいくつかの取組みを実施しています。その中でも代表的なものを紹介します。1つは「学術院・研究科FDプログラム」です。年4回開催していますが、このプログラムには教員だけでなく多くの学生が参加しています。本学術院・研究科に在籍する学生は、将来、大学教員や研究者あるいは高度専門職業人になることが期待されていることから、教育・指導力の向上ならびに教育と研究に関する社会的要請への関心が求められ、学術院・研究科FDプログラムはそのことを学生の立場で経験・学修する貴重な機会となっています。もう1つは、学位プログラム・専攻の垣根を超えて年1回開催する「学生の集い」です。これは学生同士の絆を作り、リーダーシップを高める重要なイベントとなっています。学内に併設されている野外活動施設「野性の森」に、これまで名前も所属も知らなかった学生たちが集合してグループを組み、自然から与えられるさまざまな課題の解決に向け、互いに知恵を絞りながら創造性を発揮して困難を乗り越えていく、というプログラムです。本学術院・研究科が有する多様な学問領域の特徴を活かして、「人間」に対する自らの専門分野と異なる立場の意見や考えを共有しつつ、お互いの親交を深めかつ他者への寛容さを身につける絶好の機会になっています。なお、本イベントにつきましては、COVID-19感染拡大が起こった2020年以降に中止されていましたが、2023年度から再開されました。


学位プログラム・専攻の垣根を超えて年1回開催する「学生の集い」の様子

 さらに、世界で活躍できる国際性豊かな人材育成に力を入れていることも本学術院・研究科の大きな特徴です。学術院・研究科独自に国際交流協定校との協働教育に加え、国際ディベート合宿、サマースクール、サマーインスティテュートなどを積極的に開催することで国際性を推進しています。また、学生が自ら海外の研究者と連絡をとり、自身の学位論文研究に役立つ活動を行うことに対する「武者修行型学修派遣支援」事業も学術院・研究科独自に実施しています。毎年多くの学生が世界に羽ばたいており、その成果には目を見張るものがあります。


未来社会の担い手を育成する学術院総合戦略本部の設立と活動

 本学術院・研究科における近年の特筆すべき活動として、学術院総合戦略本部があります。本活動は、SDGsやSociety 5.0が目指す社会の実現や地球規模課題の解決に向けた社会変革の担い手を育成する教育機関としての大学院への期待が近年ますます大きくなり、それとともにその役割を果たすための大学院改革が強く求められている中で、学術院・研究科として対応すべき重要事案や将来的課題について組織横断的に検討するシステムを構築し、戦略的に大学院改革を進めていく目的で始められました。まず、2021年10月22日、第6回学術院・研究科運営委員会において、総合戦略室を設置することが決定されました。同室は、学術院・研究科が目指す新たな大学院教育を検討するAチーム、学術院共通専門基盤科目を主とするカリキュラムの見直しと整備を行うBチーム、達成度評価法の実態調査および整備を行うCチームで構成され、2022年3月まで各々の活動を行い、同年度4月以降は、総合戦略会議に引き継がれました。同会議は、学位プログラムの充実・統廃合・創出などの大学院教育の方向性をデザインするデザインチーム、学修・研究成果の評価とフィードバック及び大学院生の研究力の可視化を行うマネジメントチーム、産官学連携推進及び多様な学生・教員の確保による大学院教育と社会との循環を構築するリエゾンチームで構成され、各々の活動を行い、その成果を本学術院・研究科の第3回FDにて発表しました。そして、同会議の活動はさらに総合戦略本部に引き継がれ、2023年度の概算要求(教育研究組織改革分)で認められたことにより、同本部の活動を全学的に展開していくことが明確となりました。これにより、2024年度には本学術院総合戦略本部の活動のために新たに教員3名、リサーチエンジニア1名が配置されるとともに、全学的な学術院総合戦略本部連絡会議が設立されました。2024年度の同戦略本部の具体的な活動としては、構成員全体による「学術院総合戦略本部人間総合科学部会」を12回、学術院長とチーム構成員による「学術院総合戦略本部人間総合科学部会小運営委員会」を11回開催するほか、デザイン、マネジメント、アライアンスの3つのチームがそれぞれ行う「チームミーティング」が合計で52回に及びました。今後、本活動が全学的に行われることにより、本学大学院が目指す高度学際型教育が展開していくことを期待しています。



未来を切り拓く力を持ち、「問い」を発する人材の育成にむけて

 最後に、本学術院・研究科における教育・研究のコアとは何かについて、学術院長・研究科長としての考えを述べさせていただきます。それは、「自らの蓄積に基づいたオリジナルな問いを発することができる学生」を育てることです。本学術院・研究科が提供している学際性および国際性に富む環境は、学生が様々な経験を積んで得られた豊かな蓄積に基づいた問いを発することができるようにするためにあると言えます。多くのことがAIに取って代わられる時代がすぐそこに来ていますが、AIにはこのような「問い」を発することはできません。この自らの蓄積に基づいたオリジナルな問いから出発することにより、新たな価値を創造し、時代を先導する人材となっていくと考えています。そのような学生を育てるために、私達教員は、学生が安心して問いを発することができるよう心理的安全性が保たれた環境を提供する必要があります。なぜなら、オリジナルな問いを発することはチャレンジ・冒険であり、勇気がいることだからです。そのような環境の土台として、学際性や国際性のほかに、学生のコミュニケーション・スキルの涵養やメンタルヘルス維持の体制の構築も重要であると考えています。

 人間総合科学学術院に入学を希望される皆さん、ぜひ一緒に「人間」を探究し、新たな知見を発見しましょう!「人間」について幅広くかつ深く知ることは、自身のアイデンティティをあらためて理解・確認するとともに、他者への深い洞察や寛容さの醸成にもつながっていきます。本学術院・研究科での経験をもとに、皆さんが希望と活力に満ち溢れた魅力的な未来社会を切り拓く唯一無二の担い手として、世界で活躍していかれることを確信しています。

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